※『燦』(サン)株式会社
燦 発行
1999年1月号から転載
COP3でわが国は2012年までに、CO2などの排出を、1990年に比べ6%削減することになった。
その一方で、エネルギー・コストの引き下げ、資源小国であるわが国にとってのエネルギー・セキュリティの確保といった課題も提起されている。
21世紀へ向け、わが国はどのようなエネルギー政策を取るべきか、エネルギーの専門家である、参議院議員の加納時男氏(前東京電力副社長)と芝浦工業大学教授(東京大学名誉教授)の平田賢氏に語り合ってもらった。
・長期的視点
加納 昨年の11月2日から14日まで、ブエノスアイレスでCOP4、国連の気候変動枠組み条約第4回締結国会議が開かれました。その1年前には京都でCOP3が開かれ、日本のメディアも国民の方々も、地球温暖化問題にたいへん関心を持ったわけですけども、昨年1年を振り返りますと、その頃の熱気が失われてきたような気がしますが、いかがでしょうか。
平田 確かに、ちょっとトーンダウンしている感じがしますね。COP4では、期待したほどの成果は得られなかったと見られていますが、2000年に共同実施などを具体的に決めるという方向性が出たことは、非常によかったと思います。
加納 そうですね。各国ごとの温室効果ガスの削減目標を京都会議でコミットしたわけですが、それを達成するう上での合意事項の一つが柔軟性措置です。共同実施、排出権取引、クリーン開発メカニズム、この三つを中心として、フレキシビリティをどうやって認めていくか。その原則や報告システム、それを認証する手続き、義務を履行しなかったときの取組などについてのガイドライン、メカニズムを、いま先生がおっしゃったように、COP6までに決めるということを決定したことが、最大の前進だったと思います。
一方、発展途上国の参加も不可欠なテーマだったと思うのですが、今回は見送られてしまいました。これは非常に残念な点ですが、それでも韓国やアルゼンチンなど一部の国に、自主的に協議しようという芽が出てきたのは、明るいことでしょう。
そもそも、地球温暖化問題は2012年で終わるのではなく、2100年にかけての100年間でどうやって温室効果ガスを減らすのか、ということが真の問題だと思います。そうした長期的な視点と、技術の開発・普及といったことが問題・解決の根本にあると私は思いますが、平田先生は、いかがでしょうか。
平田 おっしゃるように、あまり急いで、1、2年で何か決めるというのではなく、特に途上国問題を含めて、21世紀全体を見通して100年くらいの長期計画を立てることが一番大事だと思います。技術の話しに入る前に、加納先生は地球環境問題やエネルギーがご専門で、これまで企業・財界を中心に幅広いご活躍をなさってきたわけですが、それを政治に対してどう反映させていくか、あるいはどのような抱負をお持ちであるかということを、先にご紹介いただければと思います。
・協調体制を
加納 今から1年ほど前に、地球温暖化問題に関し、国会でいろいろな議論がありました。たまたま私は参考人として呼ばれ、意見を述べたのですが、その時申し上げたのは、これは従来の公害問題と違うということです。公害問題は加害者と被害者が明確なので、誰かを罰して規制すれば解決しますし、地域も限定されています。ところが気候変動というのは、すべての人が被害者であるけれど、同時に加害者です。その解決のためにはライフスタイルを変えていかなければいけない。特に先進国の使い捨てのライフスタイル、あるいは過剰だらけのくらしを変えていかなければなりません。
次に、やはり技術が重要だと思います。エネルギー効率を改善していく技術、平田先生お得意の熱力学第二法則を踏まえて、エネルギーを徹底的に利用し尽くしていく技術や環境技術、こういったものを開発し、普及させていくことが大事でしょう。
第三に大事だと思ったのは政治・企業・市民のパートナーシップです。企業はより効率の良い機器を開発する、あるいはそのコストダウンを図ることが役割でしょう。しかし、開発しただけでは解決になりません。これを選んで買ってくれる賢い市民が必要です。同時にこれがより普及しやすくなるような、税制メカニズム、あるいは場合によっては基準や法制化を必要です。そういう枠組みを政治が作っていく。
このように、政治と市民と企業とが、パートナーシップを組んでやっていくことが大事だと考えます。私としては、今まで経団連で行ってきた仕事を、今度はパートナーの違った極へ移ってやるだけですし、今後このトライアングルをしっかり作っていきたいと思います。同時に、発展途上国と先進国のブリッジになっていければと思います。
・多用な技術
平田 お話しをうかがって、魚が水を得たという感じがしました(笑)。やはり、政治が動くということが一番大事なことですから、そうした場で自分の考えてこられたことを実現していけるということで、たいへん、期待しております。
先程、技術ということをおっしゃいましたが、一昨年の春、私が委員長を務めた環境庁の委員会で、2010年の個別の技術がどれくらいCO2の削減に効くかという計算をしました。その結果、日本は炭素換算で現在、3億トンぐらいC02を出していますけども、その2割ぐらいは2010年頃までに技術によって削減可能だという結論に達しました。
天然ガス自動車や太陽光発電など、個別の技術の普及率の見通しによって数字が異なりますが、それをかなり小さく見積っても、5800万トンから6000万トンくらい削減できる。ですから、なんらかのインセンティブを与えれば、技術的には達成可能であるという数字を出しました。結局、各省庁のご理解が得られず、その数字はCOP3には出なかったのですが。
その数字を部門ごとに見ますと、エネルギー転換部門が約半分を占めていまして、産業部門が3割ぐらい。運輸と民生がそれぞzれ1割ぐらいの寄与率です。
エネルギー転換部門というのは主に発電技術です。発電技術の高効率化には、コージェネレーションをはじめ、コンバインドサイクル、リパワリング、スーパーごみ発電など、たくさんの個別技術があります。
またそれとは少し違うのですが、原子力のパワーストレッチングがあります。原子力の出力は冬と夏とでは異なり、冬は蒸気タービンの冷却水の温度が下がるので、その分、出力が1割ぐらい増します。ところが、今は地元との契約で定格出力が100万キロワットなら100万キロワットと決まっていますから、冬は出力をしぼって運転しているわけです。
これは率直に110万キロワットに増やして運転する。
このように、合理的な熱の使い方をするということを取り上げただけでも、多くCO2削減技術が残されているわけです。
・エネルギー多神教
加納 今のお話しに原則として全く賛成です。いくつかおっしゃられた中で、感じたことを話しますと、第一は火力発電についてです。
日本は天然ガス火力発電は世界の中でも比較的効率がよく、24、5%の熱効率化から39%まで一気にきたのですが、そこで足踏みしていました。この壁をブレイクスルーしたのがコンバインドサイクルで、それをさらに進めた改良型コンバインドサイクル(ACC)という技術も開発されています。
最近できた火力発電で言いますと、例えば東京電力の富津火力で43%、横浜火力の7号、8号系列で48%を記録し、さらに川崎火力では53%を目指しています。
39%から49%に上がるということは、10%上がったのではなく10ポイント上がったわけですから、他の条件が等しければ、同じ電気を生み出すのに必要な天然ガスは25%少なくて済みますし、出てくるCO2も25%減らすことになります。
ごみ発電については、自治体と電力会社、消費者が協力すれば、より効率的なごみ処理ができると思います。それから原子力発電のパワーストレッチング。技術的には可能なわけですから、まさに政治の出番だと思います。
コージェネについては、終夜営業のレストランや、熱をたくさん使う病院など、熱電バランスのいいところで使っていくべきでしょう。コージェネが不孝だったのは、これを導入するとガス会社の利益になり、電力会社はマーケットを失うといったような誤解が一部にあったことです。
コージェネも原子力も風力も太陽光も、それぞれところを得てやっていくべきで、「エネルギー多神教」というような考え方が必要だと思うのですけれども(笑)。いかがでしょうか。
平田 大賛成です。昨年10月にコージェンヨーロッパを訪れました。これはヨーロッパでコージェネの普及を図っている団体で、去年から日本コージェネレーションセンターがその会員になりましたけれども、そこで興味深い話しを聞きました。
デンマーク、オランダ、フィンランドの3国は全部寒い国で、熱の使い道があるので全電源設備容量の30%強までコージェネをやっています。ところが、オランダで少しその普及に陰りが出てきた。このまま普及させていくと、ベースロードの稼働率を抑えるんじゃないか、という懸念が出てきたんですね。これは重要なことだと思います。
日本の場合、コージェネはまだ電源設備容量の2%強ですので、ヨーロッパのコージェネ先進国並に普及した時点で、議論すればいいと思いますが、ベースロードの稼働率を減らすようになるのは問題です。
ですから、今おっしゃったように、燃料や分散型電源も含めたベストミックスについて、全体のグランドデザインを描くことが必要だと思います。
加納 今のお話でちょっと気になったのは、オランダやデンマークは石炭がベースロードになっていますから、それなら減ってもいいのではないかと思いますが。
平田 おっしゃる通りですが、そうした国が問題としているのは、巨大システムとしてのベースロードの効率が悪くなる、ということです。
・バランス
加納 エネルギーの世界には思い詰めてしまう人が多く(笑)、原子力をやっている人は原子力しかない考え、逆に風力をやっている人は風力発電装置を日本中に作れば、他のものはいらないと考えがちです。数字の上ではその通りでしょうけれども、現実には全くありえないことなので、バランス感覚を持って見ていく必要があります。
平田 私はコージェネ推進者ですから、原子力反対派だと思われているらしいのですが、実は原子力推進論者なんですよ。原子力安全功労者表彰もいただいていますし(笑)。
私がコージェネの初期の頃から言ってきたのは、各家庭で熱を使うと時には、必ずエンジンが回っても電気も同時に作らなくてはいけない、ということです。この家庭用のレベルでの大きなトレンドとして、燃料電池が意外と早く入ってきそうです。
ダイムラーベンツがポリマー型の燃料電池を積んだ車の大量生産体制を2004年に整える、と発表しました。驚くのはその値段でキロワット5000円になると言うんです。
家庭用にするには寿命を伸ばす必要があり、少し値段が高くなるのですが、それでも家電品並の値段で作れそうなんですね。
加納 非常に新しい芽ですね。何十年ももたなくてもいいと割り切れば、使い捨てカメラと同じようなことが、エネルギー業界でも起こり得ますね。
・安全保障
加納 これにはいくつかの切り口があると思います。一つは短期か長期かということです。
別に私は電力会社の代表でしゃべっているつもりはありませんが、例えば電力の場合には、ほとんどLNGの手当てが終わっていますので、短期的にはパイプラインは必要ないと思うんですね。しかし、中長期的な目で見ると推進する必要があると思います。
二つ目はセキュリティの問題です。パイプラインの場合はリーキングの問題があり、これは温暖化に影響します。
もう一つは北朝鮮を経由するということについてです。昨年、北朝鮮のテポドンの発射がありました。私は北朝鮮の人民を決して恨んでいませんが、あの社会体制、政治システムというのは許し難いと思っておりまして、それを考えただけでもこの話は吹っ飛んでしまいます。
しかし、そうしたことを乗り越えてセキュリティというものがある、というのも事実です。私は旧ソ連からヨーロッパへのパイプラインに関してフランクフルトで行われた安全保障会議に出席し、ソ連が大切な外貨を獲得するパイプラインをカットすれば、ヨーロッパも大変だけれど、それ以上にソ連が困るから切らないだろうと主張したことがあります。
セキュリティ とはそういうものでありまして、今の北朝鮮の執行部が未来永劫続くと考えたら、先生のお話に賛成できないのですが、必ず北朝鮮は目覚めて変わってくるでしょうから、長期的な目で見ていく必要があるでしょう。
ところで、先程ちょっと申し上げたパートナーシップということを、どうお考えですか。
・共同実施
平田 パイプライン一つとってみても、ロシアの永久凍土の問題を始め、技術的に未解決な問題がずいぶんあります。
最近、分かってきたことは、西シベリアからヨーロッパにいたる長距離パイプラインは、建設して20年ぐらい経っていますが、永久凍土対策が悪くて、あちこちクラックが入ったり、漏れが始まったりしています。
そこで、今年から通産省が、共同実施ということで、日本の技術とお金で修復しようということをやっておられます。
このように、技術的にも未解決なものがずいぶんありますから、産官学政治という、本当のパートナーシップが必要だと思います。
・原子力
加納 最後になりますけども、原子力について議論したいと思います。原子力については、一昨年は旧動燃のアスファルト固化施設の事故がありましたし、去年は燃料輸送容器のデータ改ざんという真に許しがたいできごとがありました。
そうしたことを防止するために、情報公開を実施したり、情報の隠蔽を告発することは大事ですけれども、そのことと、原子力が地球温暖化防止に果たす大きな役割は、区別して議論していかなければいけないと思います。
例えば、去年、東京電力が出した環境行動レポートによれば、東電は72、3年ベースの供給構造を延長していった場合に比べ、約60%のCO2をカットしていますが、その70%の貢献は原子力によってなされています。
こういったことは意外と知られていません。あるいは石油の値段がバレル10ドルまで下がりましたけれども、これも原子力を始めとする石油以外の発電設備に替えてきた先進国の努力があったからです。
原子力が持っている強みと、潜在的なリスクがあることを正面から認めた上で、技術的・社会的にコントロールして光の面を生かしていくべきだと思います。いかがでしょうか、技術というのは必ずリスクがあるとおもうのですが。
平田 どんな技術でもそうです。しかも、日本の原子炉の運転実績では、死亡事故はゼロですしね。
加納 放射能事故で人が死んだのは、チェルノブイリだけですが、あれは日本や欧米で認めていない異常な設計システムでやっていますから。
未来永劫、一人も死なないかは別として限りなくリスクをゼロに近づけている努力は間違いないと思います。
平田 本当にそう思います。アメリカが参加しないことになったので、日本・ヨーロッパ・ロシアの三国で推進することになった核融合についても、将来的なことを考え、基礎的なことだけはやっておかなければいけませんね。
・人工島
加納そういう意味では非常に明るい話題が国会でありました。原子力の立地も含めた日本の海洋開発の話です。
日本にはアメリカの2倍の海岸線があり、そこから1キロぐらい離れた水深10〜20メートルのところで、しっかりした岩盤がある場所がかなり見つかっています。
そういうところに人工島を造る。そうすれば、島と海岸の間に静かな海域ができるので、マリンスポーツもできますし、漁礁もできます。しっかりした岩盤に原子炉を直付けすれば、原子力発電所も造れます。
日本には世界でもトップレベルの技術者の方々がおられるし、その裾野もあるということを考えると、日本が持っている素材を生かして夢のある日本をつくれるのではないでしょうか。
今、当面している景気回復への道も、そうした夢を持つことによって、開けてくる気がしますけれども。
平田 全く賛成ですね。
加納 今日はありがとうございました。
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